幽霊に腕を引っ張られた経験があります。
⑥で書いた貸家に住んでいた時のこと。
その家では、深夜、布団から手足を外に出して眠っていると、かなりの確率で金縛りに合ったので、意識的に手足を折りたたむようにして眠るクセがついていました。
試験期間中だったと記憶しています。
こたつテーブルで勉強していた私は、そのまま仰向けになって、いつのまにか眠ってしまったようでした。
フッと目覚めたのは深夜です。
両手が出ているのに気づいて、(寒い)と感じたのと同時に、(やばい)と思いました。
こんな寝方では、確実に金縛りに合うからです。
両手をこたつに入れようとしましたが、動きません。
(来たか‥‥)
私は覚悟しました。金縛りは一旦起こってしまうと抗うのは困難で、解けるまで、待つしかないと観念したのです。
すると、いきなり私の両手首が、強い力で掴まれました。そんな経験は初めてでした。
巻きつくような細い指で、その一本一本が、手首に食い込むのがわかりました。
私はすごい力でこたつから引きずり出され、そのまま宙に引っ張り上げられました。
怖くて目が開けられません。
遠くで激しい太鼓の音が聞こえるのがわかりました。
急に私の視野に、鎧をまとい、馬に乗った武者たちが、闘う姿が映像のように広がりました。縦長の旗がゆらめいています。
急に、男性とも女性ともつかない声が頭に入ってきました。
「おまえの先祖で、〇〇という名前だ。17の時に死んだ」
というような内容でした。
何のことかわかりません。
やがて、両腕が動くようになったので、私は手を振り解いてこたつにもぐりこみました。恐る恐る首だけ出して部屋を見回しました。しかし、いつもの部屋が見えるだけで、何の変化もありませんでした。
ただ、細い指が手首に食い込んだ感触だけは残っていました。
ごく最近になって、伯父や伯母や従兄弟たちが立て続けに亡くなりました。
納骨の時、年嵩の上の従兄弟がポツンと言った一言が耳に残りました。
「平家の落武者で、毛利に助けられて何とか生き延びたんだ」