占い師の怪談⑧

本当にこんなことってあるんですね。

まだ10代の頃の経験です。

日曜日、友人5人で、遠くの公園に遊びに行きました。

公園といっても、ブランコやすべり台があるごく普通の公園ではなく、

ボートに乗ることが出来る大きな池や、ドッチボールやバトミントンが出来る広場がある広大な公園です。

すぐそばには、これまた大きな墓地があって、

都市伝説で、タクシー運転手さんが深夜にこの辺りで幽霊を乗せるらしい、と、囁かれていました。

 

しかしそんなことは10代の若者には関係ありません。

ドッチボールをしたり、2人1組でボートを楽しんだ後、みんなで連れ立ってトイレに行きました。

日曜日で、しかもお天気もよいので、お客さんが多く、トイレは混み合っていました。

私が並んでいる隣りの列には、喪服姿の女性が並んでいました。

黒っぽい帽子を深々とかぶり、顔はよく見えません。ほっそりして背が高く、美人っぽい印象はありました。

そばに墓地があるので、喪服でも気になりません。

長い順番を並び、やっと私の番が来て、用を足して外に出て来ると、私の隣りの列では、友人の1人が困ったような顔をして、まだ待っていました。

「あれ? まだなんだ」

「女の人、出てこないのよ」

と、私に向かって答えたのは友人ではなく、友人の前で待っていた中年女性でした。

しびれを切らせたのか、女性は力まかせにトイレのドアを叩き、その勢いでドアがギィーと開いたのです。

中には誰もいませんでした。

私たちは顔を見合わせて、何度もトイレを覗き込みました。

人が外に出られるような大きな窓でなかったことは言うまでもありません。

そのトイレに友人が入ったかどうかは‥‥覚えていません。

 

 

占い師の怪談⑦

幽霊に腕を引っ張られた経験があります。

⑥で書いた貸家に住んでいた時のこと。

 

その家では、深夜、布団から手足を外に出して眠っていると、かなりの確率で金縛りに合ったので、意識的に手足を折りたたむようにして眠るクセがついていました。

 

試験期間中だったと記憶しています。

 

こたつテーブルで勉強していた私は、そのまま仰向けになって、いつのまにか眠ってしまったようでした。

 

フッと目覚めたのは深夜です。

両手が出ているのに気づいて、(寒い)と感じたのと同時に、(やばい)と思いました。

こんな寝方では、確実に金縛りに合うからです。

両手をこたつに入れようとしましたが、動きません。

(来たか‥‥)

私は覚悟しました。金縛りは一旦起こってしまうと抗うのは困難で、解けるまで、待つしかないと観念したのです。

すると、いきなり私の両手首が、強い力で掴まれました。そんな経験は初めてでした。

巻きつくような細い指で、その一本一本が、手首に食い込むのがわかりました。

私はすごい力でこたつから引きずり出され、そのまま宙に引っ張り上げられました。

怖くて目が開けられません。

遠くで激しい太鼓の音が聞こえるのがわかりました。

急に私の視野に、鎧をまとい、馬に乗った武者たちが、闘う姿が映像のように広がりました。縦長の旗がゆらめいています。

急に、男性とも女性ともつかない声が頭に入ってきました。

「おまえの先祖で、〇〇という名前だ。17の時に死んだ」

というような内容でした。

何のことかわかりません。

 

やがて、両腕が動くようになったので、私は手を振り解いてこたつにもぐりこみました。恐る恐る首だけ出して部屋を見回しました。しかし、いつもの部屋が見えるだけで、何の変化もありませんでした。

ただ、細い指が手首に食い込んだ感触だけは残っていました。

 

ごく最近になって、伯父や伯母や従兄弟たちが立て続けに亡くなりました。

納骨の時、年嵩の上の従兄弟がポツンと言った一言が耳に残りました。

「平家の落武者で、毛利に助けられて何とか生き延びたんだ」

 

 

 

 

 

 

占い師の怪談⑥

みなさん、金縛りに合ったことがありますか?

医学的には、「身体の筋肉が弛緩した状態で、脳が目覚めた時に起こる現象」とかって言われますが、

私にとってとても不思議なのが、「金縛り」がいつも特定の場所で起こっていたことなんです。

そしてその場所は、目覚めている時であっても、

電気を消して暗くすると、白い煙のようなものが漂っていることがある、ということなんです。

 

家族で引っ越した、新築の貸家でのことです。

周囲には大きな工場があって、日当たりは悪くないのに、ジメッとした印象がある場所でした。

私の部屋は一階で、東向きでしたが、どこか薄暗い部屋でした。

 

私は当時中学生で、その場所に引っ越してからというもの、深夜に何度か、激しい頭痛に襲われることがありました。

 

それはもう本当に痛くて苦しくて、頭の中を棒でかき回されているような感じでした。

 

ある夜、突然、いつもとは頭を上下逆向きにして寝ようと思いつきました。

なぜだかわからないけれど、ふいにです。

 

逆向きに横になって、頭があったであろう場所に目を向けると、白いモヤのようなものが、暗闇にゆっくり漂っているのが見えました。

(何だろう‥?)

当時は生理も重く、貧血もあったので、そのようなものが見えているのだろうと思っていました。

 

ところが、その白いものは、みるみる固まって、大きな顔になって行ったのです。

それは、丸髷を結った老女の顔でした。

 

私はもう怖くなって、布団に潜り込み、無理矢理目を閉じて眠りました。

 

それからです。金縛りが毎晩のように起こり始めたのは。

 

あの家には、2年ほど住みましたが、本当に苦しい2年間でした。憂うつになって、学校に行く気力さえも無くなりそうでした。

これではいけないと思い、最後の半年は、出来るだけ家には帰らず、長い時間、図書館とか、ドーナツ屋さんで勉強することにしましたが、

 

もし、ずっとその家にいたら、外に出られなくなっていたような気がするのです。

実際、昼間でも、自分の部屋の雨戸を閉め切らずにはいられなかったのですから。

 

占い師の怪談⑤

小学校3年生くらいの頃の経験です。

その頃、私は小さな子犬をもらって飼っていました。

一人っ子の私は、嬉しくて嬉しくて、学校に帰ると毎日のように子犬を散歩に連れ出しました。

ところがそんなある日、私が学校に行っている間に、子犬が首輪をはずして、いなくなってしまったんです。

悲しくて悲しくて、私は学校を終えると、毎日のように子犬を探し回りました。

ところが見当たりません。

1日過ぎ、2日過ぎ‥‥

大人たちは私に、多分、どこかで保護されて、そこの犬になっているよ、と言い、暗に諦めるよう促しました。

それでも子犬に会いたい一心の私は、3日目のある日、近所のお稲荷さまに涙ながらに願をかけたのです。

まさに、『困った時の神頼み』です。(そんな言葉は知りませんでしたが)

そのお稲荷さまは、近所の家の敷地にある、いわゆる屋敷神さまでした。

柵も何もないので、幼い頃から私は、近所の子とかくれんぼする度に、お稲荷様の背後に回って、うずくまっていたんです。バチ当たりですが、そこは私にとって格好の隠れ場所でした。(絶対に見つからなかったんですよ)

どんな願かけだったか、覚えていません。子どもだったので、たぶん、

「いい子になりますから、子犬が帰って来ますように」と、そんな感じでしょうか。

その日の夕方です。

夕焼けがうす闇に変わる頃、私は1人で茶の間でテレビを見ていました。

家には私1人。

すると、ガラッと玄関が開く音。

通院していた祖父が帰ってきたのかな、と、私は気にも止めませんでした。

ところが誰も入ってこない。

入ってこないどころか、玄関でささやくような女性の声がするのです。

何か、子どもに言い聞かせているような優しい声。

私はゆっくりと玄関を見ました。

そしたら、玄関の戸がわずかに開いていて、子犬が三和土にちょこんと座っているではありませんか。

「ああっ!」

私は子犬に駆け寄りました。

「おまえ、どこに行ってたの?!」

戸を開けて、外を見回しましたが、夕闇が深くなるばかり。一本道なのに、人の姿はありません。

近所の人が見つけて、連れてきてくれたかもしれない‥‥でも、それなら、ひと声かけて行くはず。

ご近所は気やすい人ばかりです。そんな、黙って子犬だけ置いて行く人など、(ましてや女性)想像つきません。

翌日、ご近所のおばさん達に会うたび、子犬のことを話しましたが、自分が連れてきてあげた、という人には、ついぞ出会いませんでした。

 

子犬は誰が連れて来てくれたのでしようか?

 

可哀想に思ったお稲荷さまが、願いをききとどけてくれたのでしようか?

 

占い師の怪談④

まだ小学校4〜5年生だった頃のお話です。(随分昔ですね)

その日は土曜日で、私はうちの茶の間でお昼ご飯を食べていました。

うちには私1人。

ガラガラッと玄関を開けて、誰かが入って来たので、私は玄関の方に首を伸ばしました。

狭い小さな玄関に、父親と、その後ろから青いシャツの若い男性が入って来るのが見えました。

男性は、私に気づいて、「あっ」と小さく叫びました。

(お客さんだ!)

私は慌ててご飯をかき込みました。父親はごくたまに、職場の後輩を連れてくることがあったのです。

茶碗類を流しに運び、茶の間に戻ると、父親が立っていました。

が、父親1人です。

「あれ? お客さんは?」

「何言ってるんだ。お客なんかいない。」

「えっ、でも」

「バカ言うな。オレ1人だ!」

父親に気圧されて、私はそれ以上言い返せませんでしたが、

さっき、私に気づいて「あっ」と言った青いシャツの男性はいったい誰だったのでしょう‥‥謎です。

占い師の怪談③

川べりを歩くのがとても好きなんです。

だって気持ち良いじやないですか。

少し自転車を走らせると、堤防があるので、その道をよく走ったり、ウォーキングしたりしていました。

 

自転車も好きなので、色んな川べりに自転車を走らせました。

 

でも、なぜかわからないけど、比較的近い場所にありながら、まだ行ったことがない河原がありました。

 

なぜだか、行こうという発想にまったくならなかったんです。

 

最近、わかりました。

ごく最近です。

 

そこ一帯、大昔、刑場だったそうです。

 

それがわかってからはもちろん、全然知らなかった時もそうですが、

 

そこは空気感が異なる、というか、気楽に行ける場所ではない、という空気が漂っているんですね。

 

これって何なのでしょうね‥。

占い師の怪談②

色白で、きれいなおばあさんだった。

少女のような無垢な瞳で微笑みかけてきた。

話こそしなかったが、「あらー」と言って、嬉しそうに私が運んできた白い卵に手を伸ばした。

 

ご町内の主婦数人で、地方の卵を共同購入していた時のことだ。

 

取りに来れなかった人の分を、私は玄関先まで届けてあげることにしていた。

その日もそうだった。夏の暑い日。、体調を崩したという近所の主婦のために、私は青いケースに入った生みたての卵を届けに行った。

主婦の家は鍵がかかっていなかった。

「○○さん、卵、ここに置きますよー」

玄関に卵を置いて、奥に向かって叫ぶと、

白い浴衣の老女がパタパタと小走りに現れて、「あらー」と言いながら卵に手を伸ばした。

(お姑さんかしら)

私は老女に会釈した。老女の目は、無垢な幼児のように可愛らしい。

次の週も。

その次の週も。

私が卵を届けると、浴衣の老女は必ず奥から現れて、

「あらー」と、嬉しそうに卵に手を伸ばすのだった。

 

数日だったある日、その家の主婦に道で声を掛けられた。

「いつも卵を届けて貰ってすみません。助かってます」

「いや、お互い様ですよ」

私は何の気なしに、

「そうそう、○○さんのお宅は、おばあちゃんがおられるんですね」

と言うと、

主婦の表情からスッと笑みが消え、顔をこわばらせてボソリと言った。

「もう結構です」

「えっ?」

「体調が良くなったので、次から自分で取りに伺いますから」

 

随分後になって、近所の別の人から、その主婦が「まるでうちをバケモノ屋敷呼ばわりする‥」と、非難めいたことを言っていたと聞かされた。

 

幽霊を会ったことがありますか?

あるとしたら、それはどのような幽霊でしたか?

私が会ったのは、まるっきり普通の「人」で、可愛らしいおばあさんでした。