占い師の怪談②

色白で、きれいなおばあさんだった。

少女のような無垢な瞳で微笑みかけてきた。

話こそしなかったが、「あらー」と言って、嬉しそうに私が運んできた白い卵に手を伸ばした。

 

ご町内の主婦数人で、地方の卵を共同購入していた時のことだ。

 

取りに来れなかった人の分を、私は玄関先まで届けてあげることにしていた。

その日もそうだった。夏の暑い日。、体調を崩したという近所の主婦のために、私は青いケースに入った生みたての卵を届けに行った。

主婦の家は鍵がかかっていなかった。

「○○さん、卵、ここに置きますよー」

玄関に卵を置いて、奥に向かって叫ぶと、

白い浴衣の老女がパタパタと小走りに現れて、「あらー」と言いながら卵に手を伸ばした。

(お姑さんかしら)

私は老女に会釈した。老女の目は、無垢な幼児のように可愛らしい。

次の週も。

その次の週も。

私が卵を届けると、浴衣の老女は必ず奥から現れて、

「あらー」と、嬉しそうに卵に手を伸ばすのだった。

 

数日だったある日、その家の主婦に道で声を掛けられた。

「いつも卵を届けて貰ってすみません。助かってます」

「いや、お互い様ですよ」

私は何の気なしに、

「そうそう、○○さんのお宅は、おばあちゃんがおられるんですね」

と言うと、

主婦の表情からスッと笑みが消え、顔をこわばらせてボソリと言った。

「もう結構です」

「えっ?」

「体調が良くなったので、次から自分で取りに伺いますから」

 

随分後になって、近所の別の人から、その主婦が「まるでうちをバケモノ屋敷呼ばわりする‥」と、非難めいたことを言っていたと聞かされた。

 

幽霊を会ったことがありますか?

あるとしたら、それはどのような幽霊でしたか?

私が会ったのは、まるっきり普通の「人」で、可愛らしいおばあさんでした。