色白で、きれいなおばあさんだった。
少女のような無垢な瞳で微笑みかけてきた。
話こそしなかったが、「あらー」と言って、嬉しそうに私が運んできた白い卵に手を伸ばした。
ご町内の主婦数人で、地方の卵を共同購入していた時のことだ。
取りに来れなかった人の分を、私は玄関先まで届けてあげることにしていた。
その日もそうだった。夏の暑い日。、体調を崩したという近所の主婦のために、私は青いケースに入った生みたての卵を届けに行った。
主婦の家は鍵がかかっていなかった。
「○○さん、卵、ここに置きますよー」
玄関に卵を置いて、奥に向かって叫ぶと、
白い浴衣の老女がパタパタと小走りに現れて、「あらー」と言いながら卵に手を伸ばした。
(お姑さんかしら)
私は老女に会釈した。老女の目は、無垢な幼児のように可愛らしい。
次の週も。
その次の週も。
私が卵を届けると、浴衣の老女は必ず奥から現れて、
「あらー」と、嬉しそうに卵に手を伸ばすのだった。
数日だったある日、その家の主婦に道で声を掛けられた。
「いつも卵を届けて貰ってすみません。助かってます」
「いや、お互い様ですよ」
私は何の気なしに、
「そうそう、○○さんのお宅は、おばあちゃんがおられるんですね」
と言うと、
主婦の表情からスッと笑みが消え、顔をこわばらせてボソリと言った。
「もう結構です」
「えっ?」
「体調が良くなったので、次から自分で取りに伺いますから」
随分後になって、近所の別の人から、その主婦が「まるでうちをバケモノ屋敷呼ばわりする‥」と、非難めいたことを言っていたと聞かされた。
幽霊を会ったことがありますか?
あるとしたら、それはどのような幽霊でしたか?
私が会ったのは、まるっきり普通の「人」で、可愛らしいおばあさんでした。